ギャルとギャル男の文化人類学/荒井悠介

ギャルとギャル男の文化人類学 (新潮新書)

ギャルとギャル男の文化人類学 (新潮新書)

大学時代にイベサーのトップにのぼりつめた著者が、大学院でイベサーをテーマに修論としてまとめたもの。ぼくの慶応大学院の1つ上の先輩にあたります。ぼくは直接の面識はありませんが、当時面白い修論のテーマとしてぼくの周囲では話題になってました。
「ツヨメ・チャラさ・オラオラ」という独特の価値基準や「礼儀が大事」「実は学歴が大事」などイベサー内での秩序規範などが描かれています。たとえば、「ケツモチ」という暴力団と通じたトラブル解決屋との付き合いが必要なことや、早く(若いうちに)遊んで尊敬されるべき武勇伝を作っておくことも大事な要素のようです。また人としてギャップを抱えていることも羨望を集めるようで、そのために「若いうちは遊んでいたが、今は落ち着いている」という見え方が必要になってくるそうです(これは佐藤郁哉さんの暴走族のエスノグラフィーでも見られた現象です)。あと、「スーフリ」事件が一般のイベサーに与えた影響はかなり大きかったことも印象的でした。
通常この種のフィールドワークはじぶんが出会ったことのない社会集団に飛び込む形で行われますが、この本の場合はいちどどっぷり使った集団をもういちど整理する形で描かれています。なので「カルチャーショック」と言われるような文化人類学の魅力のひとつである、出会いとしてのストーリーは失われている印象もありました。また、書けない内容も多かったのかと思いますが、ドラッグやセックスのことについてやや伏せて書いてあるのかなぁとも思いました。ですが、こういったテーマを扱ったものはとても少ないので、大変参考になるかと思います。